『〈生命〉とは何だろうか――表現する生物学、思考する芸術』岩崎 秀雄
アマゾンのレビューはさほど芳しくないが、趣旨に非常に同感の一冊だった。生命科学と呼ばれる領域に興味を持っているなら、「生命とは何か」という大上段の問いを考えないということはないだろうが、それに対して最もリーズナブルな答えは、現状ではこれだろう。とはいえ、新書というには読み易いとは言えず、もっと親しめると良かったような気も*1。
生命を、生殖や成長や運動といった観点から、客観的に捉えるのも必要なアプローチだけれど、「生き生きとしている」という主観的な感覚のリアリティが厳然としてあるのも事実で、ともすれば、その主観的な感覚の追求の方がより重要である可能性もある。例えば、過去の巨匠の芸術作品と呼ばれるプロダクトや、AIBO。一般的には生命には分類されないものの、これらの作品は、本当に「生命」ではないのだろうか。↑の定義を当てはめれば、確かに生命ではないものの。
最近は、合成生物学など*2、よりコンベンショナルな「生き物」に近いプロダクトの開発も研究がさかんだ。そして、AI (artificial intelligence)/AL (artificial life)など、実体を持たない「生命」の追求もある。どこから命と呼ぶかは、定義をそのまま演繹的に当てはめるよりも、筆者が述べるようにチューリングテストのような、ある種の発想の転換が必要なようにも思える*3。
という意味で、
バーチャル空間における「人工生命」を人工生命と呼べるなら、「生命らしさ」を求めて作品や文学をつくってきた芸術行為こそ、「人工生命」あるいは「生命に対する構成的アプローチ」の保守本流なのではないでしょうか。・・・その姿勢をここでは「生命美学」と呼んでおくことにしましょう。
という、芸術行為と生命の追求を"="で結ぼうとする著者の主張(生命美学という主張)は、今後必要な視座のように思える*4。
個人的には、
医X美:「レオナルド&ミケランジェロの解剖学」から「次の形」へ - ideomics
このあたりで書き散らしてきた「生命観」や「芸術観」みたいなものが少しまとまった気がする。これを読んで改めてレオナルドの作品を(プリントだけど)見返すと、なるほどなぁと思うところもあった。
ちなみに、Taschen社の"Leonardo Da Vinci: The Complete Paintings and Drawings"は、めちゃ大きな図版ながら、値段が破格に安く、めちゃくちゃお勧めです。しかし、破格すぎる値段や・・・
もう一冊ラボ用に買ってしまおうかしら。