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サブジェクト⇔オブジェクト思考ブロギング

『最新脳科学で読み解く 0歳からの子育て』 サンドラ アーモット・サム ワン(著)

世の「脳科学」系の本は玉石混交で、だいたい信頼できないものが多いけど、これはわりと良さげ。著者のサンドラ・アーモット氏はnature neuroscience*1の元編集長。当然、広範な論文のセレクションという意味では、世界にこれ以上のない適任者。



原題は"Welcome to Your Child's Brain"。子育てという実践的なニュアンスはなく、仕組みとか事実レベルでの紹介が主体。従って、明日からすぐ子育てに使えるというわけではない。しかし、知っといて損はない話がいろいろのってる。

小学校に入る前にどれくらい誘惑に抵抗できるかを見れば、IQよりも正確に、その子の将来の学力を予測することができます。

マシュマロ実験という、どれだけ目の前のマシュマロを我慢できるかという心理学実験があるが、この実験で待てる時間が長いほど、その後の学力が高いという相関があり、しかもIQよりも相関しているらしい。これは確かに実感としても理解できる。

生後9ヶ月の赤ちゃんに外国語を話している人のテープを聞かせたり、ビデオを見せたりしても、その言葉の音を覚えません。・・・言葉を教える人とどの程度交流したかによって、その言葉の音をどれだけ覚えられるかが決まってきます。

バイリンガルになると、言葉だけでなく、認知能力(注:言語以外の能力)も向上します。・・・バイリンガルの人は、認知制御がうまいだけでなく、普通の人とは異なる脳領域で認知制御を行っています。

英語の習得は親ならだいたい悩んだことがあると思うけど、言語習得は神経発達研究の中でも比較的進んでいる分野。言語習得に関しても、それなりにページを割いて紹介している。


その他、いろいろなトピックを紹介。最も効率のいい学習方法についての紹介もある。これは一部では常識に近い話だけど、大半の人は実践していないように思われる。同じくらい地頭があっても、学習のやり方でそれなりに差が出てしまうが、方法論的に失敗していたとしたら、それはもったいない。詳しくは、本文を参照あれ。


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2008年に出た『最新脳科学で読み解く 脳のしくみ』(同じ著者たち)

から4年。前回に比べると、分野が未成熟なゆえ確立した知見も少なく、情報の質としては下がってしまうのはやむを得ない。が、それでも読んで得るものは多い。アーモット氏には幼稚園児の子供がいるそうだが、もしかしたら子供ができたことで、興味が切り替わっていったのかもしれない*2。この本に書いてあることの多くは10年内にどんどん更新(ものによっては否定)されていくだろう。なので、2010年前後の暫定的の知見として。それでも、多くの怪しげな類書に比べればだいぶ良いはずだ。


文章に関しては若干好みが分かれるところだろう。原文は読んでいないけど、日本語訳はお母さん向けに優しく語りかける感じ。その分、サイエンスっぽいテイストや突っ込んだ説明は控え目(かなり総花的)。個人的には前回の方が好みだが、育児に興味ある一般的なセグメントには今回の翻訳の方が読みやすいかもしれない(少なくとも、マーケティング的には正しいと思う)。


更新が途絶え気味だが、著者たちのブログ。よりupdateな情報が欲しい方はこちらへ。
http://www.welcometoyourbrain.com/


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the wealth of nations, the health of nations, the mental health of nations - ideomics
でも触れたが、

"A decade for psychiatric disorders" (Nature, 2010)
http://www.nature.com/nature/journal/v463/n7277/full/463009a.html
にならって、2000年〜2009年を"a decade of brain"、2010年〜2019年を"a decade for psychiatric disorders"とするならば、さしずめ2020年〜2029年は"a decade for brain development and education"とでも言えるだろうか。2020年のnatureのeditorialのタイトルはきっとそうに違いない。トレンド・セッターとしての雑誌の役割に期待。


そして、20世紀後半から勃興し、21世紀に花開いたneuroscieceという分野を継承しつつ、より広範な理解としての"developmental science"が勃興していくに違いない。なぜなら、人間の発達と教育は人類の普遍的な関心事なのだから。


関連:
東京大学神経科学部附属保育園:教育学は自然科学か? - ideomics

まだまだ未熟であるが、しかし未熟であるがゆえに、これから世界に先んじて取っていきたいドメインだ。例えば、fMRIは、developmental scienceを通して教育学のゲームチェンジャーになるだろうか。

*1:神経科学(脳科学)のトップジャーナル。分野によっては信頼しにくい論文も掲載されるが、業界内で最も権威ある雑誌のひとつ

*2:彼女のように、神経科学を専攻している男女が育児を経験することで、育児や発達などのpre-scienceな知見が貯まっていったらなかなか楽しい。現状では特に女性PhDに期待せざるをえないところがあるけれど。