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オブジェクト思考ブロギング

「帝国以後」 エマニュエル・トッド

ひさしぶりに衝撃を受けた。これは凄い本だ。


2002年に書かれた未来展望を今読み返すのは明らかにタイミングが悪いが、予測のベースにある方法論や考え方という意味では、未だに色あせない価値がある。


著者のエマニュエル・トッド金融危機を予測した人物として、2008年以降よく取り上げられるが、実際この本でかなり明確に、金融危機のベースにあった、アメリカの貿易赤字と資本輸入の関係などに触れている。もとは人口学者、家族学者であるが、経済への洞察も凄い。


とはいえ、それはこの本の一部でしかなくて、それ以外にも魅力的な論点や考え方がちりばめられている。いくつか羅列すると、


識字率上昇が民主化、出産数低下をもたらす

現在ほとんどの途上国で識字率の上昇が認められる。識字率が上昇すると大衆が権利を求め、民主化が促される。イラン革命などは、一見非民主化のように見えるが、実はフランス革命イングランド革命といった革命と似て、民主化の動きである。前2者も民主化による社会的価値観の変動でかなりの混乱を生んでいるが、イラン革命も然り。実はイスラム圏でイランが最も識字率の高いグループ。(実際、イスラム神学を、コーランに従順に従うだけでなく、批判的に解釈しようとする人々がいるが、イランの人が多いようだ)
識字率の上昇と出産数の低下もかなりきれいに相関するようで、人口爆発識字率上昇とともに次第に落ち着く見込みだとか。
ある意味当たり前とも思えるが、識字率に注目してその統計をしっかりとフォローする労力を払うのは、ある種の視点の新しさ。


・一方高等教育の発展は格差拡大を通して民主主義の危機をもたらす

これもある意味自然な話だが、かなり重要な点だろう。途上国が民主化していく中で、先進国、特にアメリカは寡頭制に向かっている。民主化を標語にしたアメリカが内部で、寡頭制に強く傾いていたのは皮肉だが、かなり普遍性のあることなのかもしれない。今後、先進国の政治体制については、民主制という建前に囚われず、この寡頭化を踏まえて議論することが大切か。

イデオロギー=家族類型の違い?

トッドの白眉とも言える部分だが、異論も多そう。国の政体や政策を決定する変数として、トッドは家族類型を導入する。例えば、家父長制の強い日本やドイツは、長子相続型の家族をつくるが、これが政体にも反映されるという。帝国時代の植民地の扱いとか、イデオロギーとか。特に兄弟間の平等・不平等が、社会にまで反映されて、人種や国籍による平等・不平等につながるという。眉唾な感じだけど、まぁ面白い。

・アメリカ批判

題名の帝国以後というのはアメリカ批判だが、主に政治の寡頭化と、上記の貿易赤字と資本輸入からくるimbalanceに向けられている。このあたりはフランス人らしく、辛辣だが客観的。


総じて、人口動態、乳児死亡率、女性の出産率なんかで社会の動きがかなり予測できるのではないかという提起がとても面白い。トッドは、1976年に、ソ連崩壊を乳児死亡率の上昇から予測し、有名になった人。他にも人口動態から何かを予測することはできそうである。なかなか盲点である。




イラク攻撃以後の世界秩序。世界の話題を独占中のホットな海外ベストセラー、待望の完訳。アメリカは“帝国”に非ず。ソ連崩壊を世界で最も早く予言した『新ヨーロッパ大全』のトッドが、ハンチントンフクヤマチョムスキーらを逆手にとり、“EU露日VSアメリカ”という新構図、“新ユーラシア時代の到来”を予言。