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オブジェクト思考ブロギング

駒場の民芸館と近代美術館の工芸館に行った

先日民芸館の柳宗悦展と、工芸館の染野夫妻コレクション展に行った。

http://www.mingeikan.or.jp/html/exhibitions-events-mingeikan.html

http://www.momat.go.jp/CG/someno/index.html


展示自体は楽しく、心満たされるものであったが、観覧しながらずっと工芸品/文化財の保存について考えていた。(前者は庶民志向的な物が主体で、後者はややスノッブ/上流志向な物が主体でそれなりに違いがあるけれど、ひとくくりに工芸品と呼んでおく。)


というのも、先日「エルメス」(新潮新書)を呼んであるくだりに感銘を受けたから。

エルメスでは)ベルリンの壁崩壊以降には、世界各地に残されている職人技術を「発見」し「保護」するというプロジェクトが本格的に開始され、・・・(中略)・・・(例えば)砂漠の民トゥアレグ族の銀細工が選ばれ、スタッフが派遣された。・・・(中略)・・・まもなく、マリの金細工、エクアドルのパナマ編み、そしてブラジルの植物皮革といった、知られざる伝統技術や素材が続いた。・・・(中略)・・・「エルメスが頼まなければ、これは消え去る技術だったわけです。」

そして、このプロジェクトで得た技術的な知見や意匠を利用して、新しい製品開発をしているらしい。あるいは、その技術的な作品そのものをエルメステイストにして、新しく商品化しているのかもしれない。伝統のものを保存するというメセナ的な役割と自身のビジネスをしっかり結び付けている。そして、おそらく(エルメスを恋人からねだられる若い男性の銀行口座以外は)誰も傷つかないシステムだ。


文化財の保存として、モノ自体や製法の記録をストックとして保存しておくやり方(博物館や美術館や記録保管所の方法)や、人間国宝みたいな形でナマの技術をできるだけフローのまま保存しておくやり方などあるが、後者は基本的に「国」というでっかい主体がやることが多くなる。


エルメスのやり方はこれをマーケットベース、市民ベースでやろうとしているところが大変興味深かった。おそらく、小さなNPOレベルでこういった技術保存の試みが幾多あるのだろうが、やはり財源が厳しいんだろうと思う。そこを高級ブランドがやれば、自身のブランド価値はあがるし、アイデンティティとも相性がいい。なんせ、だいたいのブランドは歴史や技術やクオリティや物語があってこその「ブランド」なわけだから。特に歴史ある工芸品はフランス的なブランドの考え方と相性がいいだろう。*1


エルメスももともとは、馬具という消え去る運命だった伝統工芸にあたるような技術の会社だったわけだし、日本の工芸品もエルメスのようにマーケットベースでフロー型の保存はできないものだろうか。

今みたく一子相伝的にやっていてもそれなりに続くのだろうし、老舗の数は日本が世界最大というくらいだから、大して必要はないのかもしれないけれど、日本の工芸品でエルメスライクはブランドビジネス&伝統工芸保存プロジェクトが有り得ないだろうかと思ってみたり。

*1:フランスの高級品の協会は加入の条件を幾つかあげているが、まず第1は歴史があることらしい。