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サブジェクト⇔オブジェクト思考ブロギング

貴族社会の科学、市民社会の科学


スタップ事件では、理研の責任がみたいな話は多いけど、個人的には、「貴族社会における科学」と「市民社会における科学」の違いが浮き彫りになったことかと感じている。外交から音楽、芸術、衣食住まで、貴族社会から市民社会への移行で、大きな影響を受けないものはないが、自然科学への影響が一番遅れてきたのかもしれない。一番最初の敷居が高いものだから。


理研中興の祖、大河内正敏氏はまぎれもなく貴族だった*1

によると、彼の貴族的なパトロン精神で、今に至る理研の栄華が築かれたようだ。スタップ事件において、理研を現代企業のアナロジーでマネジメント批判をすることは可能だが、BtoCはおろかBtoBですらなく、顧客すらいない組織を営利企業のアナロジーで捉えられるだろうか。顧客のない世界で、理研を「現代的な企業」の形に転換することは可能だろうか。そもそも基礎科学というのが顧客のありえない営みではないだろうか。夏目漱石 道楽と職業夏目漱石の言うように、(顧客がいない以上)原理的に「職業」としては成り立たないもの(道楽)ではないか*2


音楽でも、classical music(class=階級とすると、直訳すれば階級音楽)が最も荘厳で立派だが、これは貴族社会という権力構造の土壌にこそ咲く華。有り余るお金と時間を持った貴族が、パトロネージュして成り立つもの。市民社会という土壌には育ちにくい。そして、現代の日本政府は(少なくとも形式としては)市民社会をベースにしている*3


民主主義の形で市民の声に選ばれる権力が最終権力だとすると、最終権力とその背景としての市民の科学・人文水準が高くなければ、研究者がいくら一流でも、税金でやっているものへの影響力は強まっていくだろう。一番あり得るコースは、税金の出し手である市民=顧客とするような応用研究へのプレッシャーだろう。特に財政が厳しくなってくると。税金=パトロネージュではなく、税金=購買費用という図式。


スタップ事件では、マスメディアや非専門家の無知を批判する研究者の声も多かったようだが、その現実をもたらしている構造が変わらなければ改善のしようもないし、そもそも税金ベースで「道楽」をやっているとしたら、批判に正当性はあるのだろうか。スタップ事件において、「圧倒的に市民」である筆頭著者と、専門家としての業績のみならず多方面に博学で現代音楽をピアノで弾きこなすという「貴族的な博士」の事件後の経過は、今後の現実も示唆しているように思える。


もし応用研究へのコースではない基礎科学や人文へのこだわりを重視するなら、「貴族社会の科学」ではない「市民社会の科学」として、どういったあり方がありえるか。市民社会における科学・人文の長期的な発展を望むなら、貴族社会そのままにエリートだけにフォーカスするよりも、広汎に初等・中等教育に予算かけた方が良いかもしれない。基礎科学とか人文といった、一見エリート色・教養色が強いものほど。狭義の研究に対して予算配分するよりも、長期的に科学・人文への理解が深まるように、あるいは予算配分がそもそも科学的になるように、全体の底上げを狙うのが正解じゃないかと思ったりもするわけだ。もちろん形は変わるだろう。言うなれば、クラシック音楽ではなくポップミュージック。


(仮想の議論として)今の専門研究職人口が、初等・中等段階の教職員として広汎に科学・人文研究活動していて、その中から成果を上げた人が専門研究者になるような構造を考えてみる*4。中心的なキャリアパスとして専門研究者を初めから養成するのではなく、まずは副業としてスタートした中から、徐々にリーグを上がっていくイメージ。研究室に集中させるのではなく、初等中等教育に種を分散させるイメージ。道楽から始めて、パトロンが見つかればそのまま準職業化するような。流行りのビッグ・サイエンスを追いかけるのではなく、むしろ分散型のスモール・サイエンスの方が、良手なのかもしれない。


「君はピラミッドのある世界と、ピラミッドのない世界のどちらが好きかね?」という言葉に関しては、素敵なピラミッドを建てるなら、税金ではなくプライベート(富豪)の予算で、となりそうだ。事業・不動産での富豪が現代の貴族になるだろう*5。彼らの世界なら「貴族社会の科学」=ピラミッドは建てられると思う。貴族社会がいけないという意味ではなく*6、ファイナンスルートが大きく変わると、当然内容からプレイヤーの人となりまで全部大きく変わるという意見。貴族社会の科学の方が立派で格好良いんだけどね。



関連:
(思想の地層)科学と社会 STAP事件の必然 小熊英二:朝日新聞デジタル

*1:今の理研も大河内家の関わりがあるようだが(不詳)

*2:応用研究は顧客がいると言ってよいだろうけど

*3:政治家が2世化しているというのは、貴族社会化しているとも解釈しえるので、直線的に「進歩」するわけではないと思うけど

*4:発表インフラとしてOA雑紙のようなものも増えているし、そもそもウェブそのもので良い

*5:アメリカではそうなってる?

*6:むしろ自分個人としてはかなりスノッブな部類だろう