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オブジェクト思考ブロギング

ディメンジョン診断と介護保険制度

DSM5への移行に当たって活発に議論されたトピックとして、カテゴリー診断vsディメンジョン診断というものがある。簡単に言うと、カテゴリー診断というのは、XXX病といったカテゴリーに分類すること、ディメンジョン診断というのは、A軸がこれくらい、B軸がこれくらい、C軸がこれくらい、、、、というようにいくつかの軸でそれぞれ評価すること。


後者の方がより緻密な議論になりうるが、現状では軸の妥当性が確定しているわけでもなく、またきれいに定量できるほど基準があるわけでもないので、支持が多数派とは言えない。が、精神医学の考え方に馴染むところもあり、コンスタントに支持がある(なのでDSM5への移行でも熱く議論された。結局は折衷的な形になったが)。


先日同僚たちと話をする中で、ディメンジョン診断に対するひとつの反論として、医療保険制度と馴染まないのではないか、という話があった。というのも、今の医療保険制度は「病名をつけて」その上で点数化して、保険・自己負担がどのくらいかという金額が決まるから。


しかし、考えてみれば急性期医療はこれで良いとしても、慢性的なものになればなるほど、病名ベースなものよりも、その人が持つ問題を複合的に評価して、保険の補助なりを決めた方が合理的かもしれない。つまり、ディメンジョン診断の考え方の方が、保険制度としてもより適当かもしれない。精神医学に関わらず、高齢者医療に関しても。慢性的なものほど、生活をベースにした支援が要求されるし、同じ「病名」でも置かれている状況でやるべきことが変わってくるから。病気を中心にして考えるよりも、その人を中心にして考えた方がアウトカムが上がりやすいこともあるだろう。


「病気を診ずして病人を診よ」という言葉は、医療倫理の文脈で、道徳的に語られることが多いが、むしろ、急性期と慢性期の診方のシステマティックな方法論的な違いであるように思える。もしこれがシステマティックな違いであれば、医療保険システム自体も、その違いを反映した方が、アウトカムや費用対効果が上がるかもしれない。(具体的には、限られた予算の中であれば、高価な薬に費やすよりも、別なセラピーやケアに傾斜をかけた方が良い、といった仮想的なケースなど)これは別に新しい考え方ではなく、介護保険で既に行われている考え方だ。


保険制度と背景にある考え方をシェーマにしてみると、

Process-centric: 薬や施術ひとつひとつに対しての保険点数(外来の標準)
Disease-centric (category-centric): DPCのような病気に対しての点数体系(入院で多い)
Human-centric: 介護保険の点数体系


Human-centricと表現すると、過剰に道徳的な響きを持ってしまうが、背景にあるのは、方法論的な違いだ。要は、慢性的なものになるほど、個人差が大きく、また生活に根ざした支援でなければ意味が薄いけど、それを別な思想背景のシステムで支援しても、かえって問題を悪化させかねないということ。例えば、精神医療における過剰投薬といった。あるいは、マクロ的にも、高齢化とともに増大著しい医療費と財政負担に対するひとつの解としても、慢性的な状態の医療支援の形として、Human-centricな、介護保険ライクな医療保険システムは有効かもしれない。もちろん、コンセプトから現実の制度に落とし込むのは大いに大きな間隙があるわけだが。