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ideomics

サブジェクト⇔オブジェクト思考ブロギング

The accidental epigeneticist - ある心理士と経済学者の一例


Behaviour and biology: The accidental epigeneticist
(Nature, 2014, News Feature)

非行や犯罪への心理学的な興味から始まり、経済状況や家庭事情などで不利な境遇にいる子供のコホートをしていたDr. Richard Tremblay。コホート研究を通して、幼少期の環境から、攻撃性などが形作られる過程を追いつつも、その生物学的な背景も理解すべくエピジェネティクス(専門家との共同研究)の道に*1。エピジェネティックな変化は解析しにくいものの、環境による生物への影響とその固定化の説明原理としては、(少なくとも理屈の上では)妥当性がある。


段々と非行や攻撃性のオリジンを遡るうちに、現在はダブリン大学で、経済状況や家庭事情などで不利な「妊婦」へ介入するようなコホート研究をしているらしい。遡り過ぎだろとツッコミたくもなるが、様々な精神疾患や行動の障害が、胎児期での環境変化でハイリスクになるということを考えると、確かにリーズナブル。

“To solve the aggression problems, which are mainly a male problem, we need to focus on females,” Tremblay says. “If you ameliorate the quality of life of women, it will transfer to the next generation.”


この記事で2回触れられているDr. James Heckman。2000年のノーベル経済学賞受賞者だが、経済状況や家庭事情などで不利な境遇にいる子供への介入が、経済的にも効率的かつ公正であるという主張をしていて、Tremblay氏などと一緒にコホート研究にも携わっているらしい。


この主張は2006年のScienceのperspectiveなどにあり、非常に興味深い。

Skill Formation and the Economics of Investing in Disadvantaged Children

要は、最も脳が変化する期間であるベビー〜幼少期に介入するのが最も効率的で、本人にとっても社会にとっても、投入したコスト以上のベネフィットがある、と。経済学をベースにしているので、費用対効果の側面から議論しており、単なる倫理的・優等生的な主張ではない。例えば、ペリー計画といったものが紹介されていて、
16号:就学前教育の投資効果から見た幼児教育の意義
の記事に詳しい。考えてみれば当たり前のようだけど、少なくとも現在の社会政策には反映されている感じはあまりしない。

1万ドルの投資に対して、(毎年)1,500ドルから1,700ドルのリターンが返ってくるほど、投資効果が高いものなのです。これは通常の公共投資ではあり得ないほどの高い投資収益率です。・・・ペリー就学前計画の被験者となった子どもたちと、就学前教育を受けなかった同じような経済的境遇にある子どもたちとの間では、その後の経済状況や生活の質にどのような違いが起きるのかについて、約40年間にわたって追跡調査が行われました。その結果は、有意な差となって表れました。


こういった話は臨床的な研究・コホート研究からはかなりサポートされている知見のようだが、より自然科学テイストの強い知見で基礎付けられたら面白そう。

こうしたペリー就学前計画の実験結果を、ヘックマンは脳科学の知見と結びつけながら分析しています。

ここのくだりは自分の興味の未来を指し示していそうだ。


脳科学自体、まだまだ萌芽期と言ってもよい時期だろうけど、社会へのアプリケーションを考える道筋としては、行動異常のリスクがありそうなセグメントへの幼少期での介入や、発達障害と呼ばれるセグメントへの早期介入は現実的に有効なものが生まれる可能性がある。

『最新脳科学で読み解く 0歳からの子育て』 サンドラ アーモット・サム ワン(著) - ideomics

東京大学神経科学部附属保育園:教育学は自然科学か? - ideomics


現状では保育という仕事が、社会的に高い地位と見なされることは多くはないけれど、こうした知見が蓄積されつつ、最も投資効果が高い時期を担っている「アーリーステージのインベスター」あるいは「ベンチャーキャピタリスト」的な位置づけとなれると、また受け止められ方も変わってくるかもしれない。保育士という職業的な形に限定をしなくても、親になると(現状では特に女性に)保育的な役割が課せられるので、子育ての位置づけも変わっていく可能性があるか。

女の問題としての子育て論を脱するひとつの方向性? Human Development Studies - ideomics


ヘックマン博士は、主に社会政策への意図として記事を書いている印象だけど、政府・公共を通さない自由市場へのアプローチもありうる。ある程度裕福な層であれば、就学前教育にはそれなりにお金をかけるだろうし、例えば語学学習は安定的にマーケットが大きそう。例えば、言語学習の基礎研究からビジネスへのマネタイズまでうまく繋がって、神経科学者の起業ができるくらいの土壌になると面白いのだろうけど。(もちろん諸々の難しさがあるのは百も承知で)


教育産業に興味のある方は必見!三井物産戦略研究所のレポート、『世界の教育産業の全体像』 | EdTech Media

就学前教育と高等教育(大学以降相当)が市場として成長している/していきそうですよ、という報告。少なくともマーケット側のポテンシャルはありそう。なんちゃってではない形でそれに脳科学がレスポンスできるかどうか。

*1:例えば、Weaver IC, et al. Nat Neurosci. 2004, 7(8):847-54