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オブジェクト思考ブロギング

『企業が「帝国化」する アップル、マクドナルド、エクソン~新しい統治者たちの素顔』松井博著


書評としては、小飼さんの
404 Blog Not Found:The Rise (and Fall?) of the Private Powers - 書評 - 企業が「帝国化」する
にて。


話しとしてはウェブでよく見るトピックだけど、全体の俯瞰と、何より書くべき人が書いたというリアリティの強さが違う。特に何が良かったって、

息子たちへの本気のアドバイスを模索する中で、自分なりに世の中がどんなふうに変わっていくのか、さまざまな情報を収集し、真剣に考えてみました。

というとこ。書く方が煽りとかネタ的に書いてるのではないから、俄然受け止める方も真剣にならざるをえないし、自分も新米の親として、今後のテーマにならざるをえない。著者の現在の仕事(アップルのシニアマネージャーだったが、現在はカリフォルニアで保育園の運営)も、なにかしらを物語っているように感じる。


内容としては、たまに論壇で聞いたりする概念的な<帝国>という言葉の解像度をより上げてくれたような感じ。著者は、アップルなGE、マクドナルドなどのグローバル大企業を「私設帝国」と定義して、「私設帝国」たちの影響力の強さや、場合によっては不正と言える行いを記述している。


改めて感じたのは、こうした「私設帝国」って、マスメディアに膨大な資金提供(=広告費)してる分、なかなか報道の対象になりにくいし、政治団体への献金も桁違いなので、政治家からのコントロールもつきにくいんだな、というところ。よく言われる話だけど。帝国=不正というつもりはないけれど、マスメディアや政治家という現代社会の最大権力からの糾弾を避けやすいというのは再確認しても良い話だ。


多くの人が指摘するように、「じゃあこの私設帝国の現状で、私たちはどうすれば良いの?」という部分は、個人として頑張れといった感じで、システムとしての論が展開されるわけではない。


もしその部分を補うとしたら、ひとつは、ジャーナリズムの多様化かもしれないと思った。ここ最近、アメリカでは商業ジャーナリズムが斜陽産業であり、徐々にNPOベースのジャーナリズムが勃興しているらしい*1。最近のピュリッツァー賞NPOジャーナリズムの表彰が多い。NPOだけあって、視聴率の高いネタを探すというよりは、社会的意義の高いInvestigative journalism(調査報道)を追求しているところが多いとか。財団などからの資金提供で成り立っていることが多く、正義そのものというつもりはないけれど、このような組織が多様に産まれたら、より帝国の不正への抑止力になるのかもしれない。メディアをコントロールしにくくなるので、よりフェアな方向に行くという期待として。


<帝国>に対するマルチチュード。といった話が出たりもするけれど、この「私設帝国」に関しては、ジャーナリズムの多様化がひとつの鍵かもしれない。著者も、「帝国はイメージを大事にする分、そこがアキレス腱」とのことを書いているが、私設帝国から独立性の高いジャーナリズムがあれば、それが一定の抑止力になりそうだ。という意味では、NPO系の多様な組織の立ち上がりも喜ばしいし、TVに関しても、周波数オークションなどで、限られた既得権益プレイヤーの寡占から、よりマスメディアを「民主化」していくことも大事になりそう。