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オブジェクト思考ブロギング

遺伝学と人文学のマリアージュ?


Genome-wide data substantiate Holocene gene flow from India to Australia


オーストラリア住人(英国由来前からもともと住んでいた人たち)とインド住人に共通するDNA配列の特徴から、4000年前にインドからオーストラリアへの移住があったのではないかと推測し、実際4000年前のオーストラリアで道具の進化や食品加工技術の断絶的な変化があったことが記録を確認したらしい。いかにもと言った内容だけど、遺伝学と文化人類学のマリアージュがどんどん進んでいっているんだなと実感。それにしても、民族という概念はどうなっていくのだろうか。


ちょっと極論に振ってみると、ゲノム解析は、人間/ヒト/Homo sapiensに関わるものであれば、徐々に標準ライブラリとしての「あたり前な」ツールになるのかもしれない。政治や経済の分析に、統計学を使うのを、今更誰も何の感慨も持たないのと同様に、ヒトに関わる諸学問・・・政治、経済、文学、思想、美学など・・・に、遺伝学geneticsはツールとして標準装備されていくのかも(あくまでもツールでしかないが)。


例えば、Dr. James FowlerというUCSDの研究者(政治学)がいる。
James Fowler
James H. Fowler - Wikipedia, the free encyclopedia
政治信条と遺伝子の関連を調べたりして、genopolitics (genome/genetics + politics)*1と表明している。もちろん、現段階では微妙なのは本人も百も承知だろう。このあたりのツール系の仕事は、「有用」とわかった頃には、学者としてはかなり遅すぎるので、数年後を見据えた見切り発車。(もちろん、個人情報の取り扱いとして、中でもセンシティブな情報だし、楽観視できない部分もある。)


実際この方は、
Facebookで投票率UP? - ideomics
ニコラス・クリスタキス - 肥満は感染する? - ideomics
といった仕事も手がけていて、VC的にトピックに先行投資していくタイプみたいだ。


現段階では、遺伝学とヒト関連学問の融合といっても、政治、経済、文化人類学あたりが多い印象だが、ここから思想や美学、文学といった、より人文的な応用が考えられたら、なかなか面白そうだ。というのも、学問の世界のイノベーション/レボリューションの方程式として、基礎的なレイヤーの科学が、より上位の、日常生活により近いレイヤーの科学に、方法論的に「侵攻」することが、ひとつの形としてあると思っているから。


例えば、分子生物学、あるいは分子遺伝学。このあたりの分野は、物理学者や化学者が、生物の世界に「侵攻」したことにより、発展がドライブされた経緯がある。コンセプト的にも、物理学者シュレディンガーの『生命とは何か』が、理論的支えにもなった。物理学バックグラウンドのフランシス・クリック氏、物理化学バックグラウンドのロザリンド・フランクリン氏、生物学バックラウンドのジェームズ・ワトソン氏らの関わりによって、DNAの二重らせん構造が解明されたのは非常に象徴的な出来事だ。基礎的な科学が、より上位の人間に近いレイヤーの科学を、方法論的に刺激することで、新しい知見が生まれる。


もちろん、これは基礎的な科学の方が「偉い」という意味ではなくて、実際の現場に接することによる臨床的な知も必須だろう。上記のDNAの例では、結局ワトソン氏が、その後のプレゼンスが最も高いのは、何かしらを物語っているかもしれない。


ともあれ、分野の融合というのは、今後ますます進むだろう。それを受け止める知の機関として、大学はどこまでできるだろうか。もしかしたら、慶応SFCのような形を「一般化」するのは、ひとつの手かもしれない。SFCは来る何かしらの機関の雛形になるだろうか?

慶應SFCというシステム - ideomics

個人的には、教育学の分野で、佐藤学先生の本を興味深く読んだが、こういった臨床的な知と、より基礎的なレイヤーの方法論、例えばMRIなどが融合していったら、なんか面白そうだという感覚がある。具体的な形はまだ構想できていないが。



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2013年2月6日追記

例えば、common trait common variant hypothesisに基づいて、ロマン主義者と合理主義者の極北をリクルートして、GWASしたら、何かしら理由づけできそうなSNPが捕まるだろうか。さすがに厳しいかしら・・・