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オブジェクト思考ブロギング

サンフランシスコ出張:学会と財団、サイエンスのファンディング


今回の目的はアメリカ人類遺伝学会だったけど、学会の作り方はやはり一日以上の長がある。こういうイベントを作るのは本当にうまい人たちだ。特に上層部のスピーチは実にうまい!人の上に立つには、コミュニケーション、特にスピーチがしっかりしていないと、という文化なんでしょうか。とあるセッションでのヨーロッパ遺伝学会のプレジデントの話し方(初老の女性教授)は、実に綺麗で思わずうっとりと聞き入ってしまった。マクロ的なリーダーシップにやはりスピーチのスキルは欠かせないか。


学会で財団資金の賞があったり、そもそも研究自体に財団からのファンディングが結構あるけど、富裕層の資産を科学・技術のパトロネージュに向かわせるにはどうしたら良いんだろうか。というのが最近の脳内課題。起業自体が科学技術系だと、何も働きかけなくても自然に、X prizeとかAllen instituteみたいに始まるのだろうけど(この点西海岸は困らなさそう)、欧州や東海岸エスタブリッシュメントはむしろ文化事業に興味がありそうだし。というのも、先進国がどこも財政難で、科学予算への期待を続けていくのは簡単ではない状況なので、ファンディングを(富裕層由来の)財団で頑張る必要が増してくるだろうから。その点で、その他の文化事業と潜在的なcompetitorになりえる。



富裕層に「科学をパトロネージュするのは"最高に"格好良い」とブランディングできれば良いのだけど。どうしたら良いもんか。このあたり西海岸の勢いでどうにかならないかな。疾患研究だと家族会ベースや、よりパブリックに支援を呼びかけることも多いだろうけど。基礎系になればなるほど、パブリックへのアピールは難しいだろうし(なかなか響かないだろうし)。


もちろん、パブリック向けのコミュニケーションも大事。しかし、パブリック向けのコミュニケーションにしても、バイオロジーの「サイエンスコミュニケーション」の最大のアキレス腱は、バイオ系エンターテイメントSFが少ないことな気がする。正確でわかりやすいサイエンス・ジャーナリズム云々といっても、まず第一に興味がなければ記事を読もうとも思わないので、現段階ではそもそも記事に目を通そうかなどうしようかな、くらいのモチベーションを持ってもらうことが大事なフェイズかなと。


できるだけ正確に研究の知見を伝えるという「真面目な」サイエンスコミュニケーションも大事だろうけど、今はそれ以前の段階で、おそらく正確さ云々の前に何らかのエンタメ的フックが必要かと。だいぶ昔になるけど、ジュラシック・パーク*1パラサイト・イヴ*2インパクトあるSFだった。こういうバイオ系SF(よくあるマッドサイエンティストが出てきて悪役になるようなものではなく、もっとサイエンス・テクノロジーがフィーチャーされるようなもの)が今一番必要なフックじゃないかしら。

*1:著者のマイケル・クライトンは医学部出身

*2:著者の瀬名さんは薬学博士