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ideomics

サブジェクト⇔オブジェクト思考ブロギング

類は友を呼ぶのか、友が類を呼ぶのか?

ニコラス・クリスタキスが「肥満は感染するか?」といった挑発的なタイトルで、ソーシャル・ネットワークによって、肥満のリスクが上がる(肥満な人の友達は、肥満である確率が通常より高い)という疫学を示したが、この現象に対してはいろいろな解釈がある。肥満の友人を持つことで自分が肥満になりやすくなるという効果を指摘するものから、単に肥満な人たちが一緒に集まりやすく、特に友人関係そのものが影響を及ぼすわけではない(もともと肥満なだけで変化はない)と考えるものまで*1


The Spread of Behavior in an Online Social Network Experiment

An Experimental Study of Homophily in the Adoption of Health Behavior

は、MIT Sloan School of ManagementのCentolaによる実験的な研究だが、↑の問いに関連して、ソーシャル・ネットワークが健康に関して与える影響を分析する試み。Bスクールから出されているというところがなかなか興味深い。


いずれも自前で独自のSNSフェイスブックみたいなもの。健康関連に特化したサービスと銘打つ)を用意し、700名程度の被験者を集める(①と②は別々の実験)。700名がSNSに参加し、そこでFBみたいな情報のやりとりをする。主に健康関連の話題を扱うわけだが、例えばあるフォーラムに参加したり、ダイエットダイアリーをつけるというアクティビティを用意し、それがSNS上で伝播していく割合や、参加する人の割合をメインのアウトカムとする。これらのアクティビティはSNSで繋がった「フレンド」経由でしか情報は仕入れられず、SNS経由での情報の伝播に限定される。


①では、まずネットワークの構造について比較。フレンドが非常に限局してクラスター化されたネットワーク(友人の友人が自分の友人であることが多いような狭いコミュニティで満たされたネットワーク。結婚式のテーブル割のようなイメージ)とランダムに参加者をリンクさせたネットワーク(友人の割り付けが完全にランダムで、友人の友人が自分の友人であることは少ないような、コミュニティ感の乏しいネットワーク。)の比較。どちらのネットワークもフレンドの数は変わらないように設定し、参加者を割り付ける。


ウイルスといった病原体はランダムネットワークの方が広まりやすいと言われているが、健康関連のアクティビティに参加する割合は、クラスター化ネットワークの方が多かった。おそらく、クラスター化ネットワークでは、複数の友人がアクティビティに参加すると、一人しか参加してなかった場合より、一気に参加しようとする気が起きるという背景が予想される。これは生活の実感とも合う。ランダムネットワークだと、このような複数人の参加を同時に見ることが少ないのだろう(複数の同時のインプットが意味を持つというのは、ニューロンシナプス入力に似ている)。


結論としては、クラスター化されたネットワークの方が、健康関連のアクティビティに参加する割合が多く、健康に関して行動の変容を促すには、クラスター化がひとつの鍵になることが示唆された。


②では、homophily(同種のものを好むこと。例えば同じ人種同士を好むことなど)が健康関連の行動変容に与える効果を検証。こちらも2つネットワークを用意し、参加者をランダムに割り付けるわけだが、いずれもネットワーク構造としては同様にクラスター化されたネットワークを用いる。こちらは、人種や肥満度などが似た属性の人を集積させたネットワーク(homophilous network)とランダムにごちゃまぜにしたネットワーク(random network)を用意する。(ランダムという言葉が頻出するが、①と②は違う実験)


そうすると、homophilous networkの方がrandom networkよりも、例えばダイエットダイアリーへの参加率や伝播率が高いという結果になり、homophilous networkの方が健康関連行動を促す可能性が高いということになった。これも考えてみれば当たり前で、人間は自分と似たような人がやっていることに影響されやすい。(知り合いだとしても)オリンピックアスリートがいくら特訓したって、そんな運動しようと思わないが、同級生がジムに通いだしたら、ちょっと行こうかなと思う。興味深いのは、homophilyによって影響されるのは、非肥満者より肥満者の方が高かったということ。


今回は、①②ともにポジティブな効果のみ検証しているが、ある意味諸刃の剣でもある。というのも、ネガティブな健康関連の行動も、同様に広まりやすいと考えられるから。これは肥満の話を繋がってくる。逆を返せば、肥満な人に①クラスター化されたネットワークで②homophilyをポイントに介入すれば、その悪循環を逆回転させうるということにもなる。あるいは、アルコール依存症のAAなんかも多少近いものがあるかも。


これだけで何か劇的な効果をもたらせるとまでは思わないけど、健康関連行動に対するソーシャル・ネットワークの影響という意味でなかなか面白かったし、実際のサービス設計なんかに応用できそうな部分もある。「医療を基幹産業にする、という発想」? - ideomicsと関連して、これを例えば、健康保険の保険者なんかが主体でやったら、結構意味あるんじゃないかと思ったり。


しかし、Bスクールも結構実験系な研究するんだなぁと感慨深い。今までは実証といっても、実態調査という感じだったろうし、そもそも概念的・形而上学的な話が多かったように思うが、違う潮流があるのかもしれない。このあたりの「実験的な実証」を、現場とともにできたら、なかなか経営学も実りがあるんだろうなと素人考えをするが、よくわからん。