ideomics

オブジェクト思考ブロギング

神童、必ずしも天才ならずや?

Nature 479, 113-116 (03 November 2011)
"Verbal and non-verbal intelligence changes in the teenage brain"


これまで、IQは人生を通してだいたい安定した値を示すと考えられており、それを前提にして診断なりを下すことも多い。例えば精神遅滞と診断されると、かなり昔のIQで障害者手帳が継続されたりする。この報告は平均して、14歳〜17歳の3,4年のIQ変化を調査したものだけど、どうやら一定の割合で、かなり変動する人がいるらしい。これは生活実感とも合うけれど、数字で示されたのだなぁという印象。



(脳外傷と高次脳機能障害より)


IQは大雑把に分けて、言語性のもの(verbal IQ)と作業性のもの(nonverval/performance IQ)*1があるけれど、33人の被験者のうち、20%がどちらか片方で15ポイント(標準偏差ひとつ分)の変動があった。3年間で標準偏差ひとつ分の変動というとそれなりの大きさ。


それに加えてMRIで脳の体積を同時に追っている。結論としては、言語性IQの変動は、言語のarticulation(発音、調音)を司る部位の体積変化と相関が強く、作業性IQの変動は、指や手の運動を司る部位の体積変化と相関が強かったよう。部位の体積変化と相関するから、その部位が能力と相関するとは言えないし、いわんや因果関係についてはなおわからないが、どちらの相関も興味深い。言語能力というと、言葉の「内容」について言われることが多いが、実際には、その「言い方」「イントネーション」「抑揚」が大事なのかもしれない*2


作業性IQと指や手の運動の関係はなお興味深い。というのも、進化において指や手の運動が知性の発達に寄与してきたという仮説にも示唆的だし、教育の方法を考える上でも、指や手を使った作業の意味合いについて示唆的。相関関係が機能的な因果関係まで繋がるには相当な距離があるけれど、教育の方法を考える上で、もうちょっと詰めてみてもいいかもしれない。「手作業によって知性が発達するのか」という命題の検討。既に教育メソッドでありそうだけど、コホート研究とかできそう。


加えて、精神医学との関連。統合失調症は、発症前に能力低下があったりして、ある種の前駆症状とも言えるような状態になることが見られるけど、IQ変動が大きい群に関しては、ちょっとプロフィールを詰めてみてもいいかもしれない。一定の大きな変動を示す群(基本的には低下)が、その後統合失調症などの発症するリスクが高いとしたら、早期に介入して役に立てる可能性もある。もちろん、IQ変動だけで何か言えるわけではないだろうけど、こちらも示標のひとつにはなるかもしれない。こちらも、コホートで追った研究が待たれる。

*1:パズルを解いたりする能力

*2:かなりの飛躍だけど