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『超マクロ展望 世界経済の真実』 水野和夫・萱野稔人

これは凄い。読後の興奮を抑えるのにこんなにエネルギーがいるとは思わなかった。ああこれが恋といふものだろうか。思わず2冊目を買ってしまった。そしてもう一冊買ってしまいそうだ。線を引きまくって、抜き出した部分をカードにしてKJ法なんぞをやってみたり。専門家の世界では、ごく普通のコンセンサスなのかもしれないけど。これがオリジナルの論考だとしたら翻訳すべきだし、相当な名著になるんじゃないかと*1


内容は、アマゾンの書評や、

水野和夫・萱野稔人 「超マクロ展望 世界経済の真実」 (9) 総集編 - Victoriaの日記

『超マクロ展望 世界経済の真実』から学ぶこと(1):海神日和:So-netブログ

「超マクロ展望 世界経済の真実」水野和夫・萱野稔人: 書評「ブック・ナビ」

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「超マクロ展望 世界経済の真実」−たそがれ日本の将来へのヒント - 内藤忍の公式ブログ

水野和夫『超マクロ展望 世界経済の真実』 - martingale & Brownian motion

といった書評でかなり触れられている。書名通り、超マクロ。人工衛星から地球を眺めるくらいの鳥瞰図。


ざっくり言うと、


今の先進国の経済停滞は一過性のものではなく構造的なもので、それは現行の資本主義内で利益を上げるメカニズムが一旦終焉したから。利益を上げるメカニズムとは、先進国が途上国の資源を安く買い叩くという仕組みであり、1973年のオイルショック以降、経済における元植民地の独立・資源ナショナリズムが始まったことで、その安く買い叩くという仕組みが終わってきている。その頃から先進国の交易条件が悪化し、利益率≒長期の利子率が低下傾向。


16世紀前後に封建制から近代国家・資本主義への移行があったが、その背景には、封建制度内における利子率の漸減があった。大航海時代を経て、植民地ができると、そこから収益を収奪的に上げる仕組みができ、経済活動が盛んになった。植民地を持った帝国の中でも、海を制したイギリスやオランダは封建制から近代国家・資本主義への移行を果たすことができたが、封建的なもの(特に土地へのこだわり)に縛られたスペインやイタリアは没落した。スペインは自国周辺の領土拡大という封建的な志向に縛られ戦争を繰り返し、破産した。これは「陸」から「海」への覇権の移動とも言える。「空間革命」と言ってもいい。


20世紀の覇権国といえばアメリカだが、アメリカは植民地をほとんど持たずに経済発展をした。最初は工業製品の輸出から勃興したが、オイルショック以降交易条件が悪化してからは、金融空間の支配による経済覇権を狙った。その最たるものが、1990年代のルービン財務長官の時代で、全世界から資本を集め、それを配分するセンターとして、金融空間のハブとしてGDPを押し上げた。特に象徴的なのが、石油やコモディティ金融商品化。OPECが石油自体の自己管理を始めても、取引市場を制することで、価格の決定権を持つという覇権。


これは、金融工学に流れ込んだロケットサイエンティストや、航空軍の戦略策定に由来するRAND corporationにちなんで、「空・宇宙」空間の覇権と表現しうるとしている*2。軍事的に直接植民地を支配するという、イギリス流「海」の資本主義ではなく、経済システムを操作することで、自国に有利な仕組みを他国に導入し、特に金融によって収益を収奪的に上げていく。


現在はこの「海」や「空」の資本主義が終焉しつつあるフェイズ。16世紀もそうだが、そのフェイズでは、社会全体の利益率≒長期の利子率が低下する。今の日本は世界史でも稀に見る低利子であり、20〜21世紀の利子率革命とも言える(16世紀でも世界史上記録的な低利子率であったよう)。リーマンショック以降の経済停滞を繰り返される景気の波と捉えるのは間違いであり、記録的な低利子率を証左とする、この「海」「空」の資本主義が終焉しつつあるフェイズと捉えるべきである。


というような主張。他にも論点がいっぱいいっぱいあるが、とりあえずこの辺で。


個人的には、「海」の資本主義が終わりつつあるのは、新興国の勢いからわかるとしても、「空」の資本主義(金融空間の資本主義)はまだ続くんじゃないかと思ってしまう。現在発展している国の企業は、結構欧米資本に株を持たれていそうだし。そして、金融を通した支配は、おそらくメディチの時代からありそうなので、これは歴史を通して続いていそう。特にアメリカだけの話ではないかと。


しかし、ここから投げかけられる課題・・・現在の資本主義の次のステージ・・・を歴史的なパースペクティブで考えてみるのはとても楽しい。おそらくデータや論拠に穴はあるんだろうけど、とてもインスピレーショナル。アマゾンの評価もすごく高いが、★5個では十分ではない。

『大停滞』 - HONZでは、『大停滞』という著作が、

New York Times、Financial Times、Wall Street Journal等さまざまなメディアが「2011年最大の話題の書」と呼ぶくらいである。英Economistは著者を「今後最も世界に影響を与える経済学者の一人」に選出した。

と絶賛されていると紹介されているが、この『大停滞』の議論が話題になるならば、その説明として、利子率革命や空間革命といった歴史から抽出した概念を用いて、経済停滞を説明した本書は何段階か上を行っていると思う。おそるべき新書。

*1:今の世界では、英語にならなければ「本」とは言えないという前提として

*2:まぁちょっと無理があるよね・・・