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ideomics

サブジェクト⇔オブジェクト思考ブロギング

エピジェネティクス

ちょっと前にヤフーニュースでも取り上げられた「うつ病のバイオマーカー」。BDNFといううつ病に関わっていると考えられる遺伝子の調節領域のDNAメチル化がうつ病のバイオマーカーになるかもしれないというお話。

原論文はこれ↓
PLOS ONE: DNA Methylation Profiles of the Brain-Derived Neurotrophic Factor (BDNF) Gene as a Potent Diagnostic Biomarker in Major Depression*1


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今いる研究室も精神疾患におけるエピジェネティクスを扱っている。精神医学に限らず、ガンや再生医療の文脈で今エピジェネティクス関係の報告が盛んだ。というか、基本的にはガンや再生医療(iPS細胞など)の方で盛ん。


エピジェネティクスに関する基礎的な知識はウィキペディア
エピジェネティクス - Wikipedia
を参照していただくとして、このエピジェネティクスなる概念が生物学に与えうるインパクトを考えたい。バイオマーカーとしてだけではなく、より中心的なメカニズムの可能性として。


いずれも仮説レベルだが、2つの点で注目に値するかと考えている。

①個体発生・発達におけるランダムネス

古来から氏か育ちかという論争は長く、英語ではnature or nurture?と言われる。今の生物学の言葉にするならば、遺伝子か環境か?ということになるが、いずれも個体レベルでは、何らかの原因→結果という機序を想定している。因果律を前提にしている。


ここでエピジェネティクスが確率論的な影響という第3の因子として登場する可能性がある(遺伝=第1の因子、環境=第2の因子として)。というのも、DNAのメチル化が一定の割合でランダムに起こっている可能性があり、もしそうだとすると、遺伝子の調節がある種偶然や確率にゆだねられることになる。nature or nurtureを超えて、第3の因子としてランダムなエピゲノム変化というのがありうるかもしれない*2。例えば、病気になるのも、すべて決定論的に決まるわけではなく、くじ引き的な要素がある、と。


A. Petronisの"Epigenetics as a unifying principle in the aetiology of complex traits and diseases"*3では、一卵性双生児(遺伝子は基本的にほぼ一緒)が、別々な病気になったり性格になる背景として、環境因以外に、この「くじ引き」的なランダムネスを挙げている。DNAのメチル化がある程度ランダムに起こるため、たまたま異常なメチル化が蓄積した方は病気になるが、そうでない方は病気にならないといった具合に。


②柔らかな遺伝性 soft inheritance

現在議論が紛糾している点だけど、エピジェネティックな変化が、果たして子孫に伝達されるのかという話し。少なくとも細胞分裂の時はかなりの確率で伝達されるので、あり得そうではある。エピゲノム変化は、生きている間にそれなりに起こるし、環境による変化もあるので、もしエピゲノムが次世代に伝達されるとしたら、今生きている世代の行動が次世代の行動に生物学的な意味で影響する。


ラマルクの獲得形質の遺伝は、現在の生物の教科書では否定されているが、もしかしたら、ラマルク的な獲得形質の遺伝*4は部分的にが成り立っているかもしれない。だとすると、我々の喫煙や飲食、ストレスといったものが次世代に物質的なレベルで影響を与えるという、なかなか恐ろしいシナリオ。少なくとも、一部の環境因子でエピゲノムが変化することはほぼ共通見解なので、これが子孫に伝わるかどうか。


いずれも仮説レベルの話であり、実証はされていない。とはいえ、現在の生物学のパラダイムに疑問を投げかける。特にニューロサイエンス関係では、脳細胞での①ランダムネスがかなり重要な働きをしている可能性がある。疾患や性格の多様性は、エピゲノムの「くじ引き」で決まっているかもしれない。

*1:興味深い話であるが、信頼性については今後検証必要であろう

*2:もちろん遺伝子の突然変異自体もランダムと言えるので、ランダムネス自体は新しくない。別な階層のランダムネスとして。

*3:http://www.nature.com/nature/journal/v465/n7299/full/nature09230.html

*4:ジャン=バティスト・ラマルク - Wikipedia