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オブジェクト思考ブロギング

小熊英二さんの講演

だいぶ前になるが、東京都写真美術館の「ジョセフ・クーデルカ展+小熊英二さんの講演」に行った。小熊さんは「1968」という、学生紛争を扱った著書があり、1968年の同時革命の文脈で講師として呼ばれていた。そのときのメモ(個人的な考えも含めたメモであり、文責は私)。


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同時革命と言ったものの、小熊さんはざっくりと否定。確かに、フランス五月革命、アメリカのベトナム反戦運動バークレー等の学生紛争、日本の学生紛争、チェコプラハの春など、同時的に起こっているが、内容はいずれも異なっており、同じ平面で語ることは難しいと。


ただし、いくつか共通点も指摘。

①世代交代の要素
第2次大戦が終わってから23年後の1968年。このくらい時が経つと、世代もがらっと変わる。それまでの世代は2次大戦からの連続性を持って生きているが、新しく生まれた世代はそうではない。新しい世代は、その連続性に対してフレッシュな視点を投げかける。それが例えば「運動」といった形に結実する。今回の中東革命(エジプト革命)もムバラク政権誕生後から30年。ムバラクを知らない世代が出てきたという背景がある。


②冷戦構造へのアンチテーゼ
↑と絡むが、2次大戦からの継続である冷戦構造へのアンチテーゼという面。新しい世代にとって、戦争はリアリティのある現象ではなく、かつ戦争の継続たる冷戦構造もある意味、不自然で不合理な構造。そこに疑義が生じる。特にアメリカではその要素が強い。プラハの春は言うまでもないが、こちらはレベルがだいぶ違う。


③工業化社会へのアンチテーゼ
工業社会というのも戦前からの連続性かもしれないが、いわゆる工場労働者を前提にした工業社会。生活が豊かになり、徐々に知識労働者も増えるが、社会構造は依然として工業社会のまま。このあたりへの疑義があったのかも。フランス、アメリカ、日本と特に学歴の高い層で学生紛争があった点からも伺われる。このあたりはドラッカーが1969年に「断絶の時代」を書いたのと重なる。
とはいえ、欧米と日本ではその後の事情が異なる。欧米は1968年後、特にオイルショック後に不景気になり雇用減少。そして、そのまま脱工業化を模索することになる。一方日本は工業化そのままで景気よく雇用安定。若者のポジションは大きく異なり、欧米では知識社会へのモガキが始まるが、日本では結局皆サラリーマンとして定着した。


小熊さんの学生紛争への評価は厳しめで、後に残したものは少ない、と。残したものというと、サブカル?消費社会?・・・その辺りは結局触れられず、わからなかった。そいや全然関係ないけど、昔の新聞はインテリヤクザのもので、今の週刊誌や夕刊紙みたいなもの、決して上品なものではなかったし扇動的だったという指摘はなかなか面白かった。


今の日本も脱工業化と言われて久しい。脱原発で工場の海外移転が進むと言われるが、脱原発がなくてもそれは進むかと思われる。昔の欧米のように。保守的な重工企業ですら「日本人は要らない」と震災前から言っていたし。人件費やモチベーションの高さを考えるとそうなる。ここから知識経済の要素をうまく取り入れて新しいステージに移行できるかどうか。1970年以降に欧米が悩んだこと。さて、どうするか。


2011/8/20追記:
会場から小熊さんに質問。「クーデルカの写真展にちなんで質問です。1968年の紛争に最も影響を与えた写真などありましたら教えてください。」


小熊さんの「写真のことは門外漢ですし学生紛争への影響のことはわかりませんが、NASAによる宇宙から見た地球の写真はその後の社会に大きな影響を与えたと思います。NASAの写真によってglobalという視点が生まれ、世界の共在性・同時性というものがよりはっきりとしてきたと言えるでしょう」といった趣旨の答えをされていた。


確かにNASAによる地球の写真は20世紀を記念する写真のひとつかも。http://visibleearth.nasa.gov/