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オブジェクト思考ブロギング

suicide study

デュルケムの「自殺論」といえば、社会学の古典として、いわゆる必読書とかのリストに入ってたりする。ちゃんと覚えてないけど、プロテスタントの方がカソリックより自殺者の割合が多いなどのデータを引き合いにして、つながりの弱いコミュニティで自殺者が多いといった話をしていたような記憶がある。*1


彼が自殺論を書いたのも、自殺者の増加という背景があったのだろうが、今の日本もかなり多い。統計がどれくらい信用できるかは疑問ではあるが*2、発表では3万人を超えている。しかも他の死亡原因と違って、若者や壮年者もそれなりの割合で含まれる。明らかに大きな不幸だ。



(警察庁より)


精神医学の世界では、自殺に至るまでにうつ病など精神疾患に罹患している割合は○%といった話がなされるが、事後的に判断するにも限りがあるし、精神疾患を重要な因子として考えたいかどうかという個人的な考えに大きく左右されているような気がする(数値も一定しない)*3。経済的な背景がどの程度で、といった話も詳細は不明だ。他の領域で一般的な動物モデル研究というのも成り立ちにくい。


精神医学的なアプローチは大事であることは間違いないだろうが*4、もっと社会学や経済学といった分野と共同してアプローチできると、自殺をとりまく状況が今よりも詳しく把握できそう。自然科学の分野では共同研究が大事といわれるが、今後は社会科学の研究室とコラボしていけたら、更に世界が広がりそうだし、より大きな課題にぶつかっていける。(他にも発達障害の研究・臨床も教育・教育学関係の人と一緒にやれたら良いのだろう。)


デュルケムは、今で言うところのソーシャル・キャピタル*5に注目し、ソーシャルキャピタルと自殺との相関関係/因果関係を考えた点で、社会精神医学的先駆者とも言える(例えばクリスタキス氏といった人の先人と言えるかもしれない)。医学に引きつけて考えるなら、「介入」や「治療」まで視野にいれてこそだが、それは今後の課題なんだろう。少なくとも、うつ病を早期発見して、早めに治療をというだけではない何かが必要そうだし、大きなチャレンジ。仮にソーシャル・キャピタルに自殺への抑止力があると仮定すると、その増大にはどういう方法がありうるかといった課題になる。かと言って、ソーシャル・キャピタル測定しづらすぎだし、介入の検証ができることもほとんどないし、なかなか白昼夢的なのだけれど。


他の医療もそうだけど、理学風にメカニズム云々と探すより、工学的に解決そのものを試行錯誤して試して行く方が早かったりすることも多いという感覚はある。メカニズムはブラックボックスでも、何か有効なものが見つかればいいじゃん、といったプラグマティズム。仮に何かしらの抑止力がありうるとしたら、現状(自分の頭では)ソーシャル・キャピタルくらいしか思い付かないが、他にも何か別なアプローチはあるだろうか。



(警察庁より)



孤独なボウリング:パットナム


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2014年8月9日改訂

*1:エミール・デュルケーム - Wikipediaによると、宗教のデータは誤りだそうだが

*2:1998年に急に増加しており、金融危機によるものか、あるいはもしかしたらデータ処理の変更などがあったのかもしれない(不詳)。そもそも自殺かどうかって判定難しい

*3:例えば、自殺という行動を違うカテゴリー(診断群)にすべきなど、アグレッシブな意見もある。論理的には今の診断体系の考え方にフィットはするが、すぐには一般的な同意は得られなさそう。参照:"Mental health: A road map for suicide research and prevention"

*4:とはいえ、笹井氏自殺 - 精神科医の本音日記ははまさにブログタイトル通りの本音かもしれないが

*5:ソーシャル・キャピタル - Wikipedia