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オブジェクト思考ブロギング

ニコラス・クリスタキス - 肥満は感染する?

2007年にNew England Journal of Medicine*1に衝撃的な論文が掲載された。なんでも、肥満が「感染」するというのだ。論文の著者が書いた「つながり」という一般向けの本もかなり話題になった。


もちろん、肥満がウイルスや細菌のように感染するわけではない。その人が属するソーシャルネットワーク/クラスターによって、肥満となるリスクが大幅に変わるということ。つまり、太った友達が多いクラスターに属していれば、自分も太っていることが多いし、その逆も然り。言われてみれば何のことはないが、それを実証的に示した意義は大きい。異論はそれなりにあろうが。


もしこれが妥当な事実したら、社会的な介入への糸口になるかもしれない。たとえば、ある肥満児を、非肥満児のみで構成された環境(学校とか)で育ててみたらどうなるか?知りたいところ。


個人的にさらに興味が湧いたのは、共著者のこと。著者のChristakisはハーバードの医者だけど、共著者のFowlerはカリフォルニア大学サンディエゴ校の政治学者。つまり、医学者と政治学者のコラボレーションなのだ。他に知らないだけだけど、こうやって人文系の人と医学者がコラボして医学系論文を書くって、医療経済以外ではあんまりなさそうなので、そういう意味で興味深い。当然FowlerはFowlerで、政治学方面で別個論文を書いている。


共同研究が大事と言われており、大型の予算をつけるために幾つかの研究室で共同研究するのは最近のトレンドだけど、自然科学系だけでなく、社会科学の研究室とコラボするのは多くはない。しかし、今後自然科学系+社会科学(ないし人文科学)系のコラボレーションは重要かつ面白いものになるのではないかと思う。まあそもそもそんな区分け自体がきっと意味ないんだけど。


ソーシャルネットワークということでウェブ関係の分野でも話題になった。


もちろん医学・疫学の文脈で、方法論としても回収したいところ。このソーシャルネットワーク解析は。精神医学への応用も自殺・うつ・アルコールなどで考えられるが、既に同じ方法でうつとアルコール依存で論文が書かれている。従って、同じ方法を使おうとしても意味がないし、第一面白くない。今後展開しうるとしたら、どんな方法がありうるか?ソーシャル・キャピタル関係で何かアイデアはないものか?考えてみたい課題。



クリスタキス・ラボ
http://christakis.med.harvard.edu/index.html



N.A. Christakis and J.H. Fowler, "The Spread of Obesity in a Large Social Network Over 32 Years," New England Journal of Medicine 357(4): 370-379 (July 2007)
http://christakis.med.harvard.edu/pdf/publications/articles/078_ed.pdf

J.N. Rosenquist, J.H. Fowler, and N.A. Christakis, "Social Network Determinants of Depression," Molecular Psychiatry 16(3): 273-281 (March 2010)
http://christakis.med.harvard.edu/pdf/publications/articles/117.pdf

J.N. Rosenquist, J. Murabito, J.H. Fowler, and N.A. Christakis, "The Spread of Alcohol Consumption Behavior in a Large Social Network," Annals of Internal Medicine 152(7): 426-433 (April 2010)
http://christakis.med.harvard.edu/pdf/publications/articles/108.pdf


参考までに:ネットワーク研究のパイオニアといえばバラバシ。
バラバーシ・アルベルト・ラースロー - Wikipedia

*1:臨床医学の最も権威ある雑誌のひとつ