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オブジェクト思考ブロギング

「ブックビジネス2.0 - ウェブ時代の新しい本の生態系」 岡本真、仲俣暁生 (編集)

電子書籍をめぐる「本」業界のお話。ブックビジネスといいつつも、半分くらいは図書館の話で、この本の面白いところは、図書館と書店を一元的に考えているところ。図書館を論じている本は数あれど、このようなポップな体裁で、「ビジネス」として扱っているものは少ない。


電子書籍化が進むほど、多くの中小の書店や図書館は意義を小さくしていきかねないが、単純な流通がなくなる代わりに、コンシェルジェ機能・コンサルティング機能が大事になるという。Eコマースの出現によって、多くの物販の世界で起こっていることだから、新しいことではないけれど、他の物販と違って、より大きな余波を与える世界である。どんな電化製品を買うかと比べて、どんな本を買うかは、人生のその後に与える影響は(一般的には)大きいと思われる。


小さな書店・図書館は、「コーヒーハウス」*1になろう。といった趣旨の文章があったが、これは大変魅力的。既にいくつあると思うけど*2、今後もっとたくさん出てくると嬉しい。コーヒーハウスと言えば、「近代市民社会を支える世論を形成する重要な空間」の象徴として使われる言葉であるが、これが文字通りに機能したら、素敵だ。文学寄りだったらサロンか。数々の「コーヒーハウス」が開業して、様々なジャンルから名物店主が出て・・・そこで色々なagenda settingや議論が出てきたらと想像すると楽しくなる。


書店や図書館が「コーヒーハウス」化するならば、それに相応しい建築とは何だろう。個人的に、コールハースのシアトル公立図書館や、伊東豊雄多摩美大図書館など、図書館建築はかなり好きだけど、この辺りの課題は先取りして考えると、建築学的にも面白いかも。つまり、情報のストック&フローと、人々の交流をどう絡ませるかという課題。コールハースは、「図書館とはメディアである」といった趣旨の言葉を残しているが、書店=図書館はこれからメディアとしての色彩を強めるのか。シアトル公立図書館は螺旋方に近いプランで、人々の動きを誘うという狙いなようだが、実際は如何に。他のアイデアではどんなものがあるかしら。


他に面白いと思ったのは、津田大介氏が書いていた、著作の前売り(本を書く前に、あらかじめ資金を集める)。もっと踏み込んで言えば、著作の証券化につながる。映画では、製作前に証券化した形で資金調達する方法があるが、本の世界でもそれができないかということ。ジャーナリズムの世界でも例えばSpot.us、というのがあるらしいが、本の世界でもそれができたら面白い。

 
ただ、今後は「本」という単語はあまり意味がなくなるかもしれない。「本」が電子化し、よりウェブサイトととの境界が曖昧になる。iPadなんかでは、更に境界が曖昧になる。そうすると、インターネットの情報と本の情報も一元的に考える必要が出てくる。あえて本と言わずに、テキストベースの情報をどう流通させるかという問題になる。「本」というのは、機械式時計みたいに、趣味の世界の話になるのだろうか。