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オブジェクト思考ブロギング

ドラッカーの継承

ドラッカーが流行っているとのことで、昔の本を引っ張り出してみた。初期の「産業人の未来」が一番気に入っている。1990年以降の著作は、高齢なこともあり基本的に焼き直し感は否めないが、後半の著作になるほど、「今後の課題」みたいなものの言及があって、特に「知識の体系」と「リーダーシップ」という2つのテーマが触れられている気がする。



「知識の体系」という文脈では、グーグルやSNSなどを中心として、西海岸のIT産業が頑張っているし、「リーダーシップ」という文脈では、マッキンゼー・HBSなど東海岸的なエスタブリッシュメントが中心的な課題として捉えているようだ。個人的には、知識の経済学(流通の仕方)・・・「ネットワークの原理」「情報公開の原理」「名誉という通貨」・・・といったものに興味があるが、しかし、この2つに加えて、ドラッカーが課題としていたもので、最も考えてみたいテーマは、「産業人の未来」でも中心的な、「社会における組織の位置づけ、及び組織における個人の位置づけ」というテーマ。


産業人の未来が書かれた二次大戦の頃、ドラッカーは特にナチスドイツという全体主義に対し抗するためにも、文章を書いたわけだが、ドラッカーは、全体主義に抗する社会となるには、国家と独立した「society」が必要だと考えているようだ。societyという言葉には、日本語で言うと主に「社会」と「団体」の2つの要素があるが、この2つともが、「国家」から独立している必要がある。逆にこれが「国家」に取り込まれたら、全体主義に近づいていく。


当時のドラッカーは、この「国家と独立したsociety」として、企業に注目した。それで、「(企業の)マネジメント」なる概念を生み出したわけである*1。そのため、コミュニティ的な要素も強い日本企業のあり方(家族的なあり方)は、ドラッカーの文脈では、賞賛の対象だった。


しかし、現在の企業を見るに、ドラッカーの賞賛やビジョンは必ずしも十全に正しくはなかったとも言える。おそらく、目的志向の強い組織だけでは、十分な社会的な位置づけを人々に与えることは難しい。多くの人は、その組織の目的に完全に自己を同一するわけではないから。そして、要求も厳しいから。おそらく、今後はもっと「柔らかな組織」のマネジメントが課題になろうと思われる。例えば、農協や医師会、マンション管理団体といったような、コミュニティ的な要素の強い組織のあり方が*2。特に「中間団体」という存在については、パットナムやスコッチポルの指摘*3も非常に大事だ。


国家と独立した中間団体の代表と言えば、まずは教会である。国家と同等ないしそれ以上の権力を持っていた時代もある。今もカソリック組織力やコミュニティ力はすさまじい。教会のあり方で特に参考になると思うのは、「教会法」という組織内の法治主義的なあり方である。


組織が社会内において、ある種の人格=法人として確立するには、組織(法人)=人格そのものが、そのときどきのトップに左右されない理念や行動原理を持っている必要がある。つまり、法人自体としての行動規範=律法=立法が必要となる。この規律がしっかりしていればいるほど、組織(法人)は、外部から信頼に足るものとなり、内部から見ても、恣意性が少なくなり、より安定した帰属が可能になる。教会が国家から独立した規範(教会法)を持っているように、この規範がしっかりしていればいるほど、独立性も高まるという仮説も成り立つ。


↑では企業はコミュニティたりえないと書いてしまっているが、いわゆる企業に関しても同様なことが言える。企業という法人が、そのときどきのトップに左右されない理念や行動原理を持っていれば、法人自体としての行動規範=律法=立法を持っていれば、より「法人」という人格性が強まり、単なる金儲けの手段としてだけではなく、社会を構成するユニットとして信頼に足りうるものとなり、よく言われる「日本的な企業のあり方」も正当化されるのかもしれない(例えば、ちょっと前に話題になった株式会社が株主のモノかどうかという議論において*4)。『ビジョナリーカンパニー』では、理念や規範は、営利の成功にとっても大事であるとされていた。


実際は、企業(営利)か、その他の組織(非営利)かというのは、形式的な問題であるだけかもしれない。むしろ、組織が人格=法人として、規範を持っているかどうか、というのが重要なのかもしれない。マネジメントが法治主義的な要素を強く持てば持つほど、組織=人格=法人としての信頼性(外から見ても、内から見ても)が増すという仮説を立ててみる。教会法というのはもう少し知りたいところ。





*1:「産業人の未来」 ピーター・ドラッカー - ideomics

*2:オバマ大統領がコミュニティオーガナイザーだったという履歴は示唆的である

*3:政治の無形文化財 − 「失われた民主主義」 シーダ・スコッチポル - ideomics

*4:岩井克人の論考は参考になる