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オブジェクト思考ブロギング

(再掲)「課題先進国 日本」 小宮山宏

(2008年10月05日の記録を再掲)

最近は救急科を回っているので、休日や夜にまとまった時間がとれる。おかげさまで、本を読んだり映画を見たりする時間が前より確保できている。先日は、現東大総長の小宮山さんの本を読んでみた。2007年発行の「課題先進国 日本 −−キャッチアップからフロントランナーへ」。



欧米の模倣や改良だけでは立ち行かなくなった日本が今後何をすべきかという点で、彼の意見を提示している。いわく、日本は世界の他のどこも解決していない課題を多数抱えた「課題先進国」であり、課題を抱えているというディスアドバンテージも、課題への解決をいち早く見つけ出すためのアドバンテージになりうる、いやアドバンテージにしなければならない、と。


特に彼が挙げているのが、環境問題、高齢社会、教育レベル低下の3点。それぞれに対して具体的に処方箋を述べている。中でも、環境に対する処方箋は、さすが専門だけあって説得力がある。具体的内容は割愛するが、sustainability scienceというジャーナルを立ち上げたりと基礎的な仕事から、政策、個別技術、企業戦略まで包括的に踏み込んであり、なかなか勉強になった(他の2点はややパンチに欠けていて、あまり面白くなかったが)。


環境関係の話も興味深かったが、大学のこれからのあり方に触れた点がもっとも興味がそそられた。ページにすると半ページしかない部分だったけれど。

いわく、

これからの課題解決はステークホルダーも多様化し、かつ社会全体の価値観も多様化・拡散する方向にあるので、色々な意見を集約するのがより難しくなる。課題への解決策を作成・実行するためには、多様化する意見をまとめる場が必要だが、現在はそういった機会があまりない(蛇足だが、国会はその際たるもののはずではある)。目下、新しくそういった機会を作る以外に、既存の何かを活かすとすれば、総合大学という施設がもっとも適当である。なぜなら、総合大学には、多様化された知識が集まっており、従って意見の多様化と集約がもっとも為され易い。加えて、大学を市民、産業人、役人も含めて交流する場にし、シンクタンクとしての機能を果たすことができればなおいいのではないか。

と。


大学を様々な人の交流や議論の場として提供することがどれだけ効果があって、どれだけ本業へのリスクがあるのかは未知数だが、大学という施設が次の舞台に行くのかと感慨深いものがあった。教育施設、研究施設という機能を今まで担ってきたが、シンクタンク機能(政策作成機能)、議論場としての機能(フォーラム機能)をどれだけ果たすポテンシャルがあるのであろうか。楽しみである。ハードウェアもソフトウェアもそれ用にある程度カスタマイズしなければならないが、その未来図を描いてみるのも良い余興になるかもしれない。