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オブジェクト思考ブロギング

"After America" ポール・スタロビン

アメリカのプレゼンス低下に伴い、色々なアメリカ本が出されているが、これはユダヤ東海岸アメリカ人ジャーナリストが書いた、直球中の直球。東海岸で育ち、アメリカらしい雑誌社で働き、という人が書いたもの。移民系であるファリード・ザカリアの「アメリカ後の世界」と対比できる。


おそらくこの本の唯一にして最大の展望は、「都市」への注目にある。大抵のアメリカ本は、アメリカの次を担う「国家」を考え、中国やインドを上げたり、国家間の多極均衡を唱えたりする。それは至極まっとうな考えであるが、今までのパラダイム上にのっかった議論であり、あまり新しさはない。


対して、スタロビンは、都市(NY, LA, Tokyo, London, etc)や都市国家(Singapore, Dubai, etc)を上げ、「都市」という単位のプレゼンス上昇に注目する。知識集約的な経済になるほど、都市の重要度があがり、「国家」という単位で考える思考が無意味化されていくというわけだ。「都市は(今までで言うところの)国家である」という命題を立ててもいいくらいかもしれない。


これまでは、「帝国」とか「先進国」とか「途上国」とか、「国」という単位で政治を議論していたわけだが、今後は「都市」という単位で、国とは独立した議論が必要ではないか、そんなことを言っている。


その話を敷衍すると、今後対立構造として重要になるのは、冷戦的な「東vs西」とか、「帝国vs属国」とか、「先進国vs途上国」とかいった枠組みよりも、「都市間競争」「都市vs地方」という枠組みが世界的に重要になっていくのかもしれない。


実際そういった議論はかなりある*1けれど、「都市vs地方」に関しては、いまだに難しい問題である。少なくとも日本ではそうだと思うが(東京都のふるさと納税騒動とか)、外国ではいかに。


都市vs地方はもともと日本での重要な議題であるけれど、それが世界的な広がりをもった普遍的課題でもありうる、という示唆を得たのが個人的には大きな収穫。


(*邦題は「アメリカ帝国の衰亡」とあるが、さすがに「衰亡」は意訳しすぎだろう。)




「カオス」「多極化」「中国の台頭」「都市国家」「世界文明」―米国で注目のジャーナリストが大胆に予測する、大国衰亡後の衝撃的5つのシナリオ。
著者略歴:マサチューセッツ州ウースター出身。『アトランティック・マンスリー』編集者、『ナショナル・ジャーナル』記者。1999年から2003年まで『ビジネス・ウィーク』のモスクワ支局長を務める

*1:サスキア・サッセンやリチャード・フロリダとかね