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オブジェクト思考ブロギング

「JAPAN CAR 飽和した世界のためのデザイン」 原研哉

かつてカルロス・ゴーンは「フランス人はコンセプトを考えるのは得意だが、オペレーションが不得意。日本人はオペレーションは得意だが、コンセプト・メイキングは苦手。この二つの長所を併せれば、補完的な関係になる。」といって、ルノー・日産連合の美点を説明していた。


確かに、概ねその通りではあると思うが、そのまま字義通りに受け取っていいのだろうか?


という思いを抱いたのは、この本がきっかけ。


「JAPAN CAR 飽和した世界のためのデザイン」


日本の自動車メーカーが作り出した車の独創性を、デザイナー原研哉が、自身の価値観にひきつけながら解説している。ヨーロッパで、"JAPAN CAR"という展覧会をやっており、それを本として起こしたもの。批評というより、言わば、第3者による後づけ的なプレゼンテーション。あるいは「営業」ともいっていい。


具体的には、ダイハツのTANTO, Copen、トヨタのiQ, bB, i-REAL, plug in HV、日産のcube, PIVO2、三菱のi-MiEVマツダのROADSTARといった車種、日立のGPS交通管理システム、ホンダのメーター表示などを取り上げて、日本車の「小ささの哲学」、「居住空間としての車内」、「環境技術」、「自動車の駆動系から情報系への移行」*1といったコンセプトをプレゼンテーションしている。


環境技術以外は、メーカー自身が強く声高に表明しているものではなく、原研哉自身の解釈に近いが、implicitに表明されているコンセプトといっても良いだろう。フェラーリに代表されるようなスピードと官能性、ベンツに代表されるようなラグジュアリー感といったヨーロッパ的なコンセプトとはまた別な、しっかりとしたコンセプトがあるというのがこの本の趣旨である。車種ごとの詳細は本文参照で。個人的には、この本で取り上げられているもの以外に、エスティマとかミニバンもなかなか面白いと思う*2


日本にもコンセプト・メイキングはきっとある/あったのだけど、とにかく"implicit"ないしコミュニケーション不足・プレゼンテーション不足であっただけかもしれない。と思ったりもする。日常をもっと精細に、解像度を高めて見てみれば、あるいは鳥瞰的に見てみれば、自動車と似たような例は、その辺にたくさん転がっているのかもしれない。


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原研哉さんは、敬意を抱いている人物の一人だが、彼のデザインに対する姿勢を見ていると、産業のあり方から考えさせられる。オペレーションや文化といった、表層的なデザイン(意匠)とはまた別な「デザイン」。産業構造や、歴史・文化といったものと包括的に考える姿勢ってのは、ぜひ身につけたいところ。


この記事
http://www.defermat.com/journal/2009/000649.php
の書き手(池田さん)が言うような、デザイナーの役割の変化みたいなものを感じるますね。





自動車産業を襲う不況の嵐はとどまるところを知らない。原因は経済状況の問題だけでなく、「人間にとってモビリティとは何か」という根本的な問題を突きつけている。一方、知らぬ間に「小さく、四角く、エコ」になっていた日本のクルマ。これからの自動車産業を牽引するのは明らかに日本。本書はロンドンとパリで開かれた同名の展覧会のすべてを伝え、これからのクルマを考える上で最も刺激的な一冊。
建築家坂茂と、デザイナー原研哉がパリとロンドンで発信したジャパンカー。その独創性に日本人は気づいているか。

*1:エンジンや流体力学的車体といった機械工学的なものが開発の中心であった時代から、GPSでの自動車のガイドや自動操縦といったコンピュータ的・情報処理な技術に開発の中心が移っているということ

*2:ミニバンの哲学を生かした上でのジェントリフィケーションとかソフィスティケーションは今後考えてみたい課題の一つ