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オブジェクト思考ブロギング

ローマII

ローマには古代の遺跡以外にも魅力的な場所がいくつかあるが、中でも好きなのは、スペイン階段。

写真ではあまり上手く出ないが、階段の途中に踊り場があって、舞台のようになっている。そして、階段に座る観光客からもわかるように、階段は劇場の席のようでもある。階段の下からこのスペイン階段を眺めると、舞台を見ているような気分と、自分が役者として階段の下に立っていて、観光客(観客)から見られているような気分との2つの感覚が入り混じる。不思議な気分だ。バロック様式のうねったデザインが秀逸なものさることながら、舞台としての機能はかなり興味深い。上に登ると、街が開けて見える。上からの景色もとても良い。

たかが階段のくせに、ここまで有名なものもないだろう。「ローマの休日」で、オードリー・ヘップバーンジェラートを食べるシーンは特に有名だ。ちなみに、イタリアのジェラートは、期待を裏切らずかなり美味い。ジェラートを広場や街中で食べるのが、一番ローマを感じられる旅行の仕方かもしれない。

ローマのもう一つの特徴と言えば、キリスト教だ。ローマの中にあるヴァチカン市国には、カトリックの総本山サンピエトロ聖堂がある。


ただ、私はそこまで好きでもない。像のレベルは高いが、魂がこもった
作品とも思えなかったし、信仰といった感覚を感じなかった。かなり権威的であり、権威を象徴する宮殿として機能しているといった方が良いかもしれない。

しかし、宗教も統治のひとつのやり方である。キリスト教が内面の統治を上手く行っているイタリアにおいては、政府だけが社会のコントロールの主人公である必然はないのかもしれないと感じられたことは大きな収穫であった。

ローマにはサンピエトロ以外にもたくさんの教会がある。世界でも有数の多さではないだろうか。そして、各々の教会にはそれぞれ個性がある。信仰や思想の形が異なり、それぞれの信仰や思想が物理的な形、建築や内装のデザインとして表現されているのだ。例えば、サンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会は、信仰の喜びや天にも昇る心地やハッピー感を、天使やバラをふんだんに使った少女的感性で表出しているし(いかにも楽しそうである)、 サンタ・マリア・イン・コスメディン教会は、素朴で清貧な信仰を、質素で無骨な修道士的教会として表出している(厳粛で緊張感がある)。


サンタ・マリア・イン・コスメディン教会は様式から言って、ローマ時代につくられたとても古い教会だと思われる。この教会の中で、初期キリスト教徒(奴隷が多かった)が、現実の辛さに耐えながら、素朴な信仰とともにジーザスの言葉を必死で繰り返す様を想像すると、涙が出てきてしまい外に出ざるを得なかった。



ちなみに、ローマはバロック美術の宝庫としても知られており、バロックの中心人物である彫刻家ベルニーニの作品がかなりある。実はベルニーニの彫刻を見るというのも、今回の主な目的であった。最初に見た彼の作品がとある橋にある聖天使像。


ここで友人Gに「これってフィギュアじゃん」とのコメントを頂き、一気にベルニーニへの熱が冷めた。ただし、正確に言うと、ベルニーニがフィギュアに似ているのではなく、フィギュアがベルニーニに似ているというべきである。彼の作品はきわめて優等生的であり、上手いけれど個性がない。やはり芸術と言われるには、何かしら強いこだわりや思いがないとだめなのだろうか。優等生なだけでは所詮フィギュアである。確かに写真で見たときは魅力的だったが、現実に見たときはそこまで感銘を受けなかったのは事実である。残念。

それでも、いくつか面白いものもあって、一つは聖テレサの法悦と言われるもの。


これは、信仰のエクスタシーを表現していて、シスターが信仰の感激のあまりイッテいるところである。恋愛やセックスと似たようなものだ。信仰もここまで達したら、相当一人前。

ちなみにこれも↑と似ている。


サンタ・マリア・デッリ・アンジェリ教会の天使の像は、現代の作品ながら、この旅で最も気に入った作品の一つだ。Ernesto Lamagnaという人によるL'ANGELO DELLA LUCE(ルーチェの天使像)。



一般に天使は幸せそうなふくよかな子供の姿で表現されるが、この天使像は、多数の傷があり全身ボロボロ、背中も割れ、お腹も裂け、全身はやせ細っている。むしろ、地獄の責め苦を受けている人のようだ。かろうじて、背中の翼が天使であることをうかがわせるくらいのもの。そんなボロボロの天使が、こちらに手を差し伸べている。この作品の表現しようとしている思想は難解だが、ジーザスの最後の磔(はりつけ)と関係があるように思われた。一種自殺とも言える彼の磔が何を意味する行為なのか、というのが長年の謎であったが、これは一つの導き手になるかもしれない。といっても未だよくわからないのでこの辺で止めて置く。



現在のローマは、他国と変わらずスラム化の問題などの都市問題を抱えており、経済もミラノに覇権を奪われている状態でもある。現代の課題に対処しつつ、観光地としての魅力を保存していくというのは、なかなか大変だろう。ローマ市の経営はそんなに簡単なものではない。友人Hは、ローマへの提案として、人文主義を中心とした大学をつくるといった案を言っていたが、なかなか興味深い。神学も加わったら、なお良いかもしれない。といっても、享楽的に既に満足したローマっ子が何かをするとは思えないが・・・


結論:宗教や教会の意義についてもっと良く知ろう。