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オブジェクト思考ブロギング

マッキンゼノン ── 共和について ──

マサキウスがエントリーシートを書いている所へ、世田谷の名門アサクラッスス家の次兄ジローティオがやってくる。

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「ジローティオさん、おひさしぶりです。どうされましたか。」

「研究の息抜きに立ち寄ってみたのだよ。やはりカモミールは心が落ち着くな。ところで、君は何をしているんだい。」

エントリーシートを書いている所です。ハタラカヌス学派に提出しようと思いまして。」

「おや。君はマッキンゼノン学派に熱をあげていると、弟から聞いていたのだが。」

「ええ。そうなのですが、大変そうなので止めようと思います。国際語のラテン語が必修と聞きますしね。僕には、少し無理そうです。」

「それはもったいないね。あの世界のことをよくは知らないが、私も評価している部分があるのだよ。」

「ジローティオさんがですか。それは気になりますね。」

「無論、美点だけではないだろうが、私の称揚する部分を取り出してみようか。あくまでも外側から眺めた範囲だが。」

「ええ、お願いします。」

「かの学派の美点として、私は「共和主義的な精神」を筆頭にあげたい。彼らの一部には、内側の運営にあっても、外の世界への関りにあっても、共和的な姿勢が見受けられる。ここで私の言う共和的な姿勢とは、「言葉」による討論や説得、すなわち「言論」のことであり、「暴力」や「財貨」・「所与の地位」といったものに依らずして、影響力を行使する姿勢のことだ。まさにこれは、ローマ共和制の守護者にして弁論家のマルクス・トゥッリウス・キケロの流れであり、ローマ最良の伝統のひとつだ。」

「なるほど。言論や弁論による説得というと、最近アメリカで人気のバラク・オバマ氏を彷彿とさせるものがありますね。彼もそういった姿勢があるような気がします。やや理念先行で、具体的な話に欠けるきらいはありますが。」

「まさしく彼などは、共和的な政治の伝統を受け継いだ良い例と言えるかもしれないね。実際アメリカの政治はローマを範としているところが多分にあるのだ。例えば、アメリカ建国の父達も、新聞への言論投稿や論争をローマ人の名で行ったのだよ。投稿末尾の署名に、リウィウスやポンティヌスといったローマ時代の人物名をつけるといった風に。日本では上院と言われるsenateもローマの元老院senatusを転用した呼び名だ。」

「それは初耳です。かの学派もアメリカより産まれた聞きますから、由来に共通するところはあるのかもしれませんね。学派の中心人物、マービン・バウワー氏もオバマ氏と同じハーバード・ロースクール出身と聞きますし。」

「そうだね。私は、かの学派の中心人物、マービン・バウワー氏の写真を見たことがあるが、ローマの優れた人物とははこうであったのかと想像してしまう。その実直さや意志の強さが表れた表情からね。伝記から伺われる人生もそうだ。もちろん、どこまで真実かはわからないが。ギリシャ的な美徳、観想と思索の<愛知philosophia>も素晴らしいが、ローマ的な美徳、思慮ある行動としての<英知sapienta>もおろそかにされてはならない。彼らの英知は知の伝統へも寄与しているわけであるし。」

「確かに、知識を公開する姿勢など、公共性に対する感覚が鋭敏であるような印象がありますね。かの学派には、publicというものへの意識の強い人が多く 好奇心とともに公共心が旺盛なイメージがあります。」

「無論、知識の公開が名声という利得に結びつくという効用もあるのだがね。市場と共に公共性を問うというのは、今後ますます重要になってくるであろうな。かの学派のように、「非政府」として公共性を担う集団がますます必要とされるに違いない。私は、こういった人物達のおかげで、文化としての共和主義が、形を変えながら守られていくのではないかと思っているよ。」

「おっしゃる通りかもしれませんね。」

「官僚組織には、優れた人が多分におり、頼りになる面も多々あるが、しかし、公的な地位や権力を所与として、「言論」や「説明責任accountability」が欠けてしまうことも少なくないのではないかな。官僚制は、絶対主義王政の時代に誕生したものゆえ、王政の残り香を消しきれないのは致し方ないのかもしれない。無論、我々に極めて必要な人々だがね。本来ならば、我々も公共的なものを担うべきなのかもしれないね。何となれば、共和制において「政治家」とは我々のことであり、国会を出入りする彼らは「代」議士であるから。」

「(ジローティオさんも格好いいなぁ。さすが"LEON"を愛読しているだけあるや。)確かに、政治という意味合いを職業的な政治家の方々に限る必要はないのかもしれませんね。他にも社会に大きな影響を及ぼす方法がありますしね。」

「その通りだ。マサキウスも何か自分でできることを考えてみてはどうだろうか?」

「そうですね・・・ええ・・・。何か考えてみようと思います。」

「ではそろそろ研究室に戻るとしよう。やはりカモミールは心が落ち着くな。」

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ジローティオは去り、マサキウスは再びエントリーシートに向かう。

「はぁ。興味深い話だったけど、それにしてもまた課題か・・・。最近やる事が多すぎだよ。やっぱりハタラカヌス学派が一番良いかしら。」